林 圭一のFLIP MY MESSAGE Vol.206

続・牛久の思い出

   今回は先週からの続きをお話いたします。

  まだ読んでない人、読んだけど忘れちゃった人は先週の分から読んでね。

 

  それは今から25年程前、私はバスオブジャパンに所属し、トーナメントに夢中な日々を

  送っておりました。そんなある日、バスオブジャパンの中で話題となった新しい釣り場、
  それが牛久沼でした。話半分程度に聞いたとしても、それはそれは景気のイイ話が飛び

  交い、私も牛久沼に赴いたところ、「これぞ楽園と呼ぶにふさわしい。」と言うしかない程の

  素晴らしさ。

 

  当時の牛久沼には、私が知る限り使い勝手の良いレンタルボート店は無く、私はもっぱら

  農家の田舟を借り釣りに励んでおりました。しかし人間、欲望無限とはよく言ったもの。

  早晩私は田舟では飽き足らなくなり、自分だけの牛久専用艇が欲しくて欲しくてたまらなく

  なったのです。「FRPで、エンジンがでかくて、船足速くて、中が広くて…。」という具合に

  まさに欲望は夏の雲のように湧き上がっていったのです。

  ここでひとつ、時代考証的なお断りをしておきますが、この頃はレンタルボートで釣るのが

  普通であり、カートップやトレーラーでマイボートを釣り場まで運ぶという発想はまだ

  芽生えておりませんでした。よって“マイボート”とはかなり強烈に思い詰めた発想であり、

  それなりに頑丈な船を現場に置く、というのが基本でした。“牛久専用艇”という考えは

  こういう背景からきたものなのです。

 

  とは言ってもこの時代、くどいようですがバス釣り用のボートが買えるような時代では

  ありません。バスボートはもちろん、アルミボートですらまだ売られてなかった、そんな

  時代だったのです。

  万が一売られていたとしても、スパッと買えるお金もなかった当時の私は、考え尽くした末に

  「こうなりゃどっかに落っこちてる船、拾ってくるしかねーだろ。」という結論に達しました。

 

  それからは船が落ちていそうな場所を徘徊し、適当な船を物色していきました。

  よくあるじゃないですか、河口周辺の岸辺に裏返され放置されているような船、そういうのの

  中からよさげなやつを探すのです。全長4m前後のFRP自動排水モデル、これだと牛久の

  農家の船溜まりに間借りして浮かべっぱができるのです。あぁ、なんとステキなことでせう。

  時間を見つけては探し回ること1ヶ月、ようやく馬入川(神奈川県平塚にて海に流れ出す

  相模川の下流部)にて条件に合った船を発見。

  「この船3万円で買いたし、電話乞う。」の張り紙をしてみたところ、本当に連絡があり売って

  くれました。ものごとは何でも試してみるものなのです。

  こうして私は生涯で初となる自分の船を手に入れました。馬入川から牛久沼まではレンタカー

  でトラック借りて運びました。いやー、嬉しかったな。牛久沼のすべてを手に入れたような

  気分になったものです。

 

  先週と同じことを申し上げますが、確かにあの頃は情報にも乏しく、物資も揃わなかった。

  しかし、それを熱意と工夫で何とかする、そういったプロセスも含め楽しかったのだと

  思います。お金さえ出せば何でも手に入るということが、すぐさま私達の幸せに直結する

  とは限らないのでしょう。

 

  時代が移り変わり、環境や考え方が大きく変化しても、常にバス釣りのどこかに、ワクワク

  できる瑞々しさを見い出していたい、牛久の思い出からそんなことを考える今の私です。


  次回は6月1日アップいたします。