林 圭一のFLIP MY MESSAGE Vol.284

マニュアルに関する考察 その1。

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入社された皆さんへ

私にうまくできるかしら…。」これまでこの工場で働いてきた全ての人達は一度はこの言葉を口に

しています。ブラックバス釣り、ワームという製品、その製品を作るための機械や道具や技術の話。

皆さんはこれまでのご自身の人生において、こういったこの工場内での様々な"日常"とはまったく

無縁だったはずです。見るもの、聞くもの、触るもの、その全てが新しく奇異に写ることでしょう。

だとすれば、こうした言葉がつい口をついて出てしまうのも無理からぬこと、当たり前のことです。

皆さんは縁あって当社に入社されました。私達は皆さんに永きに渡り真剣にそして明るく楽しんで

働いていただきたいと考えています。おそらく皆さんのお考えも同様なのではないかと存じます。


では、どうすれば永きにわたり楽しみながら働けるのでしょうか?

実はこの問いを満たすにあたり、特効薬とも言えるような気の利いた答えはありません。

しかしひとつ言えますことは、ご自身がこの職場から必要とされている、そうした実感や自信こそ

人を勇気づけ、仕事への意欲をかき立ててくれるエネルギーとなる、ということです。

このような世界に足を踏み入れるためには、ものごとすべからく、まずは基礎をしっかり理解して

習得することが大切です。前に申し上げたように、この工場での"日常"は皆さんにとって馴染みの

ない奇異なものです。しかし、基礎力さえ身につければ、その景色は一変するでしょう。ほぼ毎日

料理をし、車を運転し、ご予約録画ができる皆さんにやれないわけがないのです。

私達は、皆さんにこうした新たな生活をしていただくための助力を惜しむつもりはありません。

しっかり自信を持って働けるよう、まずは基礎をきちんと学んでいただきます。このような道程を

少しでも速く、楽に歩んで行けるように、要所は手引書にまとめました。ぜひご活用ください。

                                                                  
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この文章は、前回のコラムにご紹介した通りケイテックに入社される人、特に"パート社員"向けに

私が作った作業標準書、いわゆるマニュアルの冒頭に記したものです。今週は先週申し上げた

通りこうしたマニュアルについて考えてみます。


ケイテックの工場では幾人もの女性に働いてもらっています。彼女達はいわゆるパート社員で

そのほとんどが主婦であり、母親という立場の人達です。その中にはもう10年近くも勤続して

いる人もいれば、つい数カ月前に入社した人もいます。

彼女達にとって釣りやものづくりといった世界は元来馴染みのないもので、時に戸惑い時に

緊張しながら、それ相応の苦労をもって仕事を覚えていきます。


このような苦労に私を含めた男子正社員は寄り添って、彼女達が一人前に胸を張って働ける

ようになるまでお世話するのが本来の姿であります。もちろん彼女達もそうした私達の期待に

沿えるよう努力してもらわなければなりません。

しかし時にはこうした原則論がうまく機能せず、どうしてもうまく噛み合わないまま退職した

方々が一部におられたのも事実。

「まあ、縁がなかったんでしょ。」とか

「あの人は向いてないよ、ウチの仕事に。」

と言ってしまえばそれまでですが、せっかく頑張りますと言って入社した人が理由はともあれ

姿を消していく様は見たくないというのが人情。またこうした結末を迎える過程において、皆が

つぎ込むエネルギーもばかにはならず、実務上も大きなロスと言わざるを得ません。


こうしたロスを未然に防ぎ、誰であっても仕事を早期に覚えてもらうためにもマニュアルは必要、

という考え方をもって作業標準書なるものを作った私ですが、果たしてどこまでこうした標準書

に頼ったものか、ということに関してはかなり微妙で悩ましいところかと思います。


「まさしく、そうなんですよ…。」

あ、現場リーダーのあなた、共感しましたね?


マニュアルというのは家電製品で言う取扱説明書のようなもので、経験の浅い作業者にも円滑に

仕事を覚えてもらい、事故や大きな失敗を未然に防ぐことを主たる目的としています。

また、個人の裁量や能力の区別なく誰がやっても均質な仕事をやってもらいたい時や何人もの

人達で役割分担を明確にし、流れ作業を上手にやってもらいたい時などにも有効な手段です。


私は、こうしたマニュアルが時として現場を円滑にまわしていくことも知っていますし、まだ

比較的未熟な作業者を無用な失敗のリスクから守り、夜道に明かりを照らすがごとくちゃんと

導いてあげることにも役立つものだと思っています。

そうは言っても、私はマニュアルさえあれば誰でもできる、といったようなマニュアル肯定論者

ではありません。マニュアルを遵守し、約束通りの仕事をすることにも相応の能力や誠意が

必要で、これとて誰にでもできることではないからです。


ここでこの原稿の要所を言ってしまいますが、私はむしろマニュアル否定論者なのかもしれません。

私は常々マニュアルは時として必要だと理解しつつも、それだけで仕事をしてもらうことに違和感

を覚えてきました。とにかくマニュアルに沿ってやってくれ、といった職場の空気には、本来

人間が持っているはずの考える力に期待する、そういった匂いを感じることはできません。

きれいごとに聞こえるかもしれませんが、私は共に働く仲間を信じ、その人達が行う様々な発想や

挑戦、そして前向きな失敗に一喜一憂していたいものだと考えています。


さて、ここにトヨタ自動車で古くから継承されている考え方があります。

「人間性の尊重」とも呼ばれるその基本理念は、企業(職場)が人を用いることへの配慮に満ちており

私は大いに共感いたします。

来週はこのあたりにスポットを当てながら、もう少し書き進めてみたいと思います。


次回は1月31日アップいたします。