生分解ワームに取り組んだ日々 その2
樹脂のミキシングや上手な成型方法、そういったノウハウを具現化する特注マシーン…。
あらゆる試行錯誤から手にした、ありったけの知恵を込めた独自開発の生分解ワーム“BIO-MIX”シリーズを2004年春より発売した私。「これで今後につながるワームのあるべき姿とその基本技術を手に入れた…。」ゼロからの開発プロセスが長くそして険しい道程だっただけに私は言い尽くせぬ程の達成感に満たされていました。
しかし自分で言うのも何ですが、ここまで努力を重ねても、世の中はそう甘くないことがあるのです。“BIO-MIX”シリーズがそこそこ売れたのは、2004~2005年の2シーズンのみ。
その後は次第に売れなくなり、廃盤に追い込まれていったのです。
「今後につながる基本技術を手に入れた…。」と思ったのもつかの間、私が大きな落胆に包まれたことはご想像いただけるものと思います。
今になって思い返せば、この失敗の主たる原因は、私の思い上がりと言うか、勘違いにあった気がします。それは、「ここまで努力しているんだから、お客さんはきっとわかってくれる。」という思いであり、「自然保護という高い理念に燃えてやったことだから、皆ついてきてくれるはず。」という考え方であります。
ここではっきり申し上げておきますが、釣り人たるお客さんにとって必要なものは、あくまで夢のある釣れるルアーであって、崇高な理念や作り手の一方的な思いではなかったのです。ああ、こんな簡単なことに気づかないなんて…。しかし当時の私は、それほどまでに盲目的に技術開発に没頭したのでした。確かにこれに気づいてみれば、“BlO-MIX”にはまだまだのところがあったと思います。風合いや匂い、味といったところがまだまだ、よって釣れるルアーになり切れてないのだと思います。
その後JBはエコトーナメントで使えるワームの認定基準を変更しました。つまり、当初の「分解性」を問う基準から主に環境ホルモンと呼ばれる有害物質が含まれていないかを問う「安全性」へとシフトしたのです。これにより分解性を重視し、それゆえ風合いを異にする“BlO-MIX”はますます窮地に立たされていきました。
今、私はこのようなJBの基準変更に何らかの不満を述べているわけではありません。
それは、
①私も含め、業界が分解性を重視した釣れるワームを続々と開発できなかったのだから基準変更も仕方ない。
②万が一基準変更がなく、JBルールという“城壁”に守られながら続けていけたとしても、製品に十分な魅力がなければ早晩終わっていただろうことは容易に想像できる。またそういったある種の“縛り”をお客さんに課さなければ売れない製品ではいけない。
③トーナメントでは使われても、それが一般ユーザーに広く浸透していかないのであればダメ。いかに“環境に優しい”ものを作っても、使う人が少なければ何も変わらない。
といった理由からであります。要はエコ認定の基準がどうであれ、ダメなものはダメという簡単な話。
はてさて、そんなこんなで一世一代の研究開発が半ば不発に終わった私。え?がっかりしたかって?そりゃがっかりしましたさ。一生懸命やった揚げ句に成功しないんだから。え?後悔したかって?それはないです。人間、全力を尽くしたものに関する結果に対しては、案外素直に受け入れられるものです。
この件から数年たった今、私は「あの取り組みは本当に価値のあるものだった。」と心から言うことができます。「あれをやっておいて本当に良かった。」決して負け惜しみではなくそう感じています。
それは、生分解という制約のある土俵なれば、作り上げた製品につたなさはありましたが、この経験を経ることにより、自分はモノづくりの世界で十分やっていける、という自信を深めることができたからです。あくなき試行、様々な失敗の中で粘り抜くこと、そしてそうした事柄から考え、何かを発見していくこと…。
「好きなことがやれている限り、オレの力は決して捨てたもんじゃない。」このような感覚が持てたからこそ、その後の開発=樹脂タングステンや高精度2色成型ワーム=といった独自の製法を立ち上げることができたのだと思います。
決して人マネではない、自分だけのやり方を見つける、そしてその向こうには必ずや自分にしか作り得ないテイストを持った製品があるんだ。そう思いながら、日々モノづくりを楽しんでいる私です。