今年もご愛読の程、お願い申し上げます。
今年もご愛読の程をお願いするとともに、皆様つつがなく、健やかな1年を過ごされますよう、祈っております、といったところで新年のごあいさつとさせていただきます。
さて、今回は、昨年のルアーマガジン2月号に掲載された私の原稿を当コラム読者の皆様にもぜひご覧いただきたく、新春早々掟破りの転載とさせていただきます。
2011年陸王戦に出場して。
昨年私は柄にもなく陸王戦に出場しました。言うまでもなくルアマガ編集部よりお招きいただいたからです。みっともない負け方をさらすかもしれないリスクも恐ろしいが、それ以上に「負けたくないから出ないんだぜ、アイツ。」といわれるのが嫌で引き受けた次第。試合の様子や結果はルアマガ2月号をご覧いただくとして、陸王戦を通じ私が何を感じたか、について今回は話してみたいと思います。
話題その1:苦手を克服するための理性
決勝の遠賀川戦で私は「テトラポッドが苦手だ」という弱みを白状しなければならない状況に追い込まれました。そして、おそらく怖々、へっぴり腰でテトラに乗る私の姿が誌面や動画上で公開されるんだろうと思います。「こんな格好悪い姿は撮らんでくれ。」と試合中スタッフに頼んでも「林サンにこんな一面があるなんて面白いじゃないですか。」と言って聞いてくれません。人間、誰しもひとつやふたつ、どうしても許せない苦手はあるもので、私の場合、それがテトラポッドだっただけの話です。
そもそも私のテトラに関する思考は…、
・テトラに乗る
↓
・足を踏みはずす場合がある
↓
・踏みはずせば落ちる
↓
・落ちれば最悪の場合死ぬ。
というものであります。実際現場でテトラと対峙した瞬間、この思考は簡略化され、テトラに乗る=命懸けの行為、といった方程式として、否応なく私をフリーズさせるのです。バス釣りに人生を賭けている、と公言してはばからない私でも、バス釣りで死んで良い、とは思いません。よって「今回はやめておこう。」となるのが私の中での常識であります。しかし、今回はその"常識"を破らざるをえない状況に遭遇しました。テトラに乗らない限り掛けた魚は取り込めず、勝負にならないからです。
自分で言うのも何ですが、そもそもこの行為は極めて理性的なものであります。それはこれが"死にたくない"という本来の感情を"乗らねば勝てぬ"という論理的な考えと責任感が上回った上での行為だからです。あらゆる生き物のなかで、この理性を発揮できるのは人間だけでありましょう。よって人間として努力し、テトラに乗る私の姿は誠に尊い、だから読者諸兄は私のへっぴり腰を笑ってはならないのです、たぶん。
あぁ、このひと言が言いたくて、こんなに原稿を書いた私。しかし皆さんも今後の人生において、苦手を克服し結果が求められる瞬間を迎えるかもしれません。その時には、ぜひ理性の力を発揮していただきますように。
写真提供:ルアーマガジン
話題その2:陸王戦で対戦した"ノンキャリア"達
雑誌やビデオといった活字や動画の世界、こうした言わば"公の場"でもの申すためには、当然一定の資格が必要とされます。もちろん私もこの有資格者としての末席を長年汚してきたわけであります。私がこの資格を得たのは、今から30年近くも前の時代。
当時この資格を得るためのほとんど唯一のルートは、トーナメントで実績を積み上げることだったのではないかと思います。別にこの資格欲しさにトーナメントをやったわけではなかったのですが、結果として「トーナメントで成績を出す⇒資格を貰える」といった図式にハマったのは事実です。
その後それだけの時を経て、次第に新たな世代から優秀なアングラーが台頭してきました。この間、日本のバス業界も成熟を続け、公の場で発言する資格の取得方法も多様化したようです。そう、従来の路線以外に、たとえトーナメントでのキャリアを背景にせずとも、自由闊達に自分達のノウハウを公表し、多くのユーザーに夢を与えることができる、そんな人達の活躍を読者の皆さんもご存じかと思います。
このような"ノンキャリア"を代表する3人、奥田学、金森隆志、そして川村光大郎の3氏と陸王戦にて相まみえたことは、私にとって大きな収穫でした。トーナメントという客観的なキャリアを持たない彼らが、なぜここまで大きな影響力や発言権を得ているのか、私なりに理解することができたからです。
今さら私などが言うことではないのかもしれませんが、彼らは一様に釣りに対して"クソ"がつく程真面目、その探求心はどこまでも深く、私をしてお手上げな程の釣りバカです。対戦中の懸命さは言うに及ぼず、試合後の飲み会でも釣りバ力炸裂。グデグデに疲れた中居酒屋で延々繰り広げられるマニアックかつストイックな釣り談義には、さしもの私めも付いていくのがやっとだったわけでございます。
今回、半ば彼らの毒気に当てられっぱなしだった私。こういう連中がいるからこそ、日本のバス業界はみずみずしさを保っていけるんだ、素直にそう思いました。彼らは今後もキラキラと鋭い輝きを放っていくことでしょう。私も負けずに輝けるのかしら?彼らの姿に触れ、今はそんなことを考えています。おそらく私の場合は、何十年と煙にいぶされ磨き込まれた黒光り、そんな光に憧れます。きっと彼らも、そんな重厚な光を"まぶしい"と感じてくれることでしょう。そのような深くて凄みのある光を少しでも発することができるよう、これからも精進しよう、そんなことを考えさせられた陸王戦なのでした。