イカす話 その3
「エビで釣れない魚はいても、イカで釣れない魚はいない。」
取引先でもある釣具店のS氏に聞いた話は、私にとっても説得力のあるものでした。何とか実効性のある匂いをワームに付けたいと考えていた私は、匂いのもととなるイカ素材の探索に着手しました。
食品業界を中心にいくつかの会社を当たっていくと、ありました、完全にイカの身と内蔵だけで作られたイカ素材が。さっそくこれを取り寄せてみると、何やら生臭い海の匂いとカツオだしの混ざった匂いがします。アミノ酸“うまみ成分”がいっぱい、って感じ。
「おお、さすがは天然素材。ケミカル(化学的)な香料に感じる“わざとらしさ”がないな。」
「自然の中で野生をもって生きる魚に対しては、やはり素直に天然素材を使いたい。」
そう考えていた私にとって、それは大いに期待できる生命感漂う香りでした。
この素材を手にした私は、さっそくワーム材料に練り込み、試作してみることに。当時開発中だった“ライブインパクト”の試作型でのトライでした。材料を流し込み型を開けてみると、プーンと独特の匂いが…。
「お一、できとるできとる、具合はどうじゃ。」
人間の常として、品物を手に取り、鼻を近付け“クンクン”と嗅いでみます。
「ウッ!!」
嗅ぐやいなや何かこみ上げてくるような、平たく言えばゲロ吐きそうになるような、それは異臭と言うほかないようなシロモノでした。その場に居合わせたスタッフや私の家内も、思い思いに胸をさすったり、エビ反ったりしています。
「クワー、これは何とも生ゴミチックである。」
これはその後にわかってきたことなのですが、加熱成型された品物は、一晩ほど放置され、しっかり冷えると本来のイカらしいイイ匂いになります。まあ、とは言っても、今ではすっかり慣れてしまって、成型直後の製品嗅いでも何とも思わなくなりました。むしろムワーッとこの匂いが工場に充満しないと、仕事をやってる気がしない、今日このごろです。
さて、こうして試作品作ったなら、何らかの方法で公正に評価しなくてはなりません。
まず、私は以下の点を念頭にその方法を考えていきました。
①実績、定評共に申し分のないバークレイの匂いと比べ優劣を判定する。
以前より繰り返し申し上げますが、何ぶんその効果が判然としない分野だけに、判定に何らかの指標が必要でした。もし私のイカ臭がバークレイのそれに大きく遅れを取るようであれば、当然イ力臭に価値を見い出すことはできません。
②ルアーとしてではなく、“付けエサ”として扱い効果を判定する。
ワームをそのまま使いルアーとして試すと、動きに代表される匂い以外のファクターで評価してしまう可能性があるため、ワームを短くカットした切れ端をハリに刺し“付けエサ”として用います。もちろんこの付けエサにもアクションを与えず、扱う釣り人の力量が評価を左右しないように心掛けます。
匂いにウルサイ“キャットフィッシュ”審査員。どうぞ公平な審査を・・・。
④テストは2名にて行う。
テストは1名がイカ臭ワームの切れ端を、他の1名がバークレイ切れ端を使い、同時に並行して釣りをします。また、付けエサの種類を1時間ごとにそれぞれ交換し、釣りのウデ等、匂い以外のファクターが評価に入り込まないようにしました。もちろん付けエサの色もイカ臭、バークレイ共に一致させました。
以上、現実的にできるなかで、可能な限り純粋に匂いだけを評価する実験を敢行。
そして、結果はというと、ドロー。つまり、ケイテックイカ臭もバークレイもまったく同じ効果だったのです。
バークレイに遅れを取らずほっとする一方、凌駕できなかったのはチョット残念。しかし、このイ力臭が決して"まやかし"でないことは実証できたのではないかと思います。
またまた繰り返しますが、匂いとは、なかなかはっきりと断言できない"判然としないもの"です。今回ご紹介した実験から数年たった今、ケイテックのすべてのワームには、このイ力臭(天然イカフレーバーと呼んでいます)が自信を持って練り込まれています。これは時を経るごとにこの匂いに対する評価が上がってきていると実感するからです。今では私も、この匂いが付いていないとイヤだな、物足りないな、と思うようになりました。
このような原稿を書いていると、「イカ臭は絶対だ!!」くらいのことを言ったらどうか、という考えがよぎります。しかし、釣りは“判然としないもの”を寄せ集めたような遊びです。だからこそきっと、こうしてお互いいつまでも夢中になっていられる魔力を秘めているのでしょう。
どうやら来世、バスにでも生まれ変わらなければ、物事の本質を把握することは無理なようです。
次回は9月7日アップいたします。