イカす話 その2
それは今から10年近くも前、バークレイを筆頭とし、匂い付きのワームが台頭し出したこのころ、ワームの匂いに関してはやや懐疑的で奥手だった私にとっても、この話題はもはや無視して通れないほどのものとなっていました。今後もワームメーカーを標榜していくのなら、何か独自性のある、そして何よりも誰が見ても効果が歴然とした匂いの発見開発が急務だったのです。
「ワームに匂いを付けたい。それも世の東西を問わず、誰もがその効果を認めざるおえない、そんな本物の匂いを探し当てるのだ。」
そのころ、そう考えた私は色々手を尽くし、そのニーズにかなった匂いを探していました。探す、とひと言で言っても、それは何とも漠然としたもので、どうしたものか皆目検討が付かなかった私は、それでも「天然素材しか使わない」という方針を決めあれこれ探してみることにしました。
なぜ天然素材にこだわったのか、それは以下の理由によります。
「自然の中で生きる“野生”という感覚をナメてはいけない。この感覚は我々人間のようになかば“野生”を忘れた生き物には、理解不能のもののはず。仮に人間の知恵と称し、人工の匂い(つまりケミカルな匂い)で勝負しても、“野生”の前には通用しない場合がある。」
いかがです? 賢明で奥深い考えでっしゃろ?
さて、こうした思いを抱き、色々調べていたころ、私はある釣具店のSさんという方と話をする機会を得ました。このSさん、相当にシリアスなバスフィッシャーマンで、私が匂いのことを打ち明けると、こう教えてくれたのです。
「林さん、例えば水槽のバスにミミズをたらふく与えるじゃないですか。それでもうミミズに見向きもしなくなったバスでさえ、サキイカ(珍味、乾きものとして有名な)なら食べるって知ってます?僕はイカには魚に対して何か特別な力があると思いますね。ほら、漁師も言うでしょ?エビで釣れない魚はいても、イカで釣れない魚はいないって。」
うわぁ一、スゲー説得力あるし。確かにザリガニ(魚か?)から大間のマグロまですべてイカで釣りますわな一。田んぼに住むザリガニがイカを知るわけもなく、しかしあのイ力臭さはザリガニにとってもたまらないのは事実なわけで。うむ、イ力臭いワーム作るしかね一だろ、取りあえずのところは。
ああ、なんて寛容、親切、博識なSさん…。あなたのお陰で今では会社全体が生臭く、でも納得できるワーム作りができています。本当にありがとうございました。